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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

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ゲッツ板谷プロフィールphoto

板谷宏一

1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

Vol.44 手柄泥棒


 中学の3年目を僅か10日間しか学校に通わなかった息子が、奇跡的に第一志望の高校受験に合格した。
 単願で受けた一次試験には通らなかったのだが、それでも再び二次募集の願書を単願で出して試験に臨んだところ、見事合格したのだ。いや、オレにとっても久々に嬉しいことだった。ひょっとすると行く高校が無いんじゃないか、とも思っていたところに、この合格の報である。が、と同時に案の定、オレは泥棒に遭ってしまったのだ……。

 前にも別の連載で書いたことがあるが、オレの嫁は50近くになった今でも完全なゲーマーである。そう、仕事は勿論、家事も殆どやらずに、1日に10時間以上ゲームをしているのだ。ところが、変なところに要領が良く、例えばウチで友達を集めてやるバーベキューや忘年会の時も、その料理の9割以上をオレ1人で作っていると、その会の開始30分ぐらい前になるとウチの嫁はフラフラっと台所にやって来る。そして、必ず「何やってんの?」と訊いてくるので「料理を作ってんだよ!」と言うと、「ちょっとどけよ」と言って人が作ってる料理に手を出してくるのである。
 で、そうこうしてるうちに友達が続々とウチにやってきて、彼らはウチの嫁が台所に立ってるのを見て、(ああ、なんだかんだ言っても、やっぱり料理とかは全部お嫁さんにやらしてるんだ)と思うのである。
「いや、違うよっ。つい数分前まで全部オレが作ってたんだよ!」
 何度そう言っても友達は曖昧に笑うだけで、結局はテーブルに並び始めた殆どの料理を嫁が1人で作っていると思うのだ。オレは、このことが死ぬほど悔しくて、じゃあ、オレは一切何も作らない!と何度も思ったこともあるのだが、そうするとウチのバーベキューや忘年会は何も食い物が無い、戦地に赴く直前に突撃隊員たちが水杯だけで宴を催すような会になることは確実なので、毎回涙を飲んで黙々と作業をしているのである。
 そう、一事が万事、ウチのゲーマーの嫁は他人が現れる前までは寝るかゲームをするかしかしてないのに、ポイントのところで必ず自分1人だけが作業をしてるフリをするのが巧みなのだ。また、奴は体も小さいことから、ホントに肝心なことを1人で背負わせられてる可哀相な存在に見えるのである。が、再三言うけど、ウチの嫁は単なるゲーマーなのだ! そう、オレに仕事をやらせて金を稼がせ、その上にドッカリとあぐらをかいて踏ん反り返り、好きなことをしているだけなのである!!

 で、話は冒頭の、ウチのガキの高校受験の合格発表日に戻る。ちなみに、その結果は午前10時にインターネット上で発表されることになっていたが、オレは夜中の3時に目が覚めてしまった。そう、ドキドキして、殆ど熟睡が出来なかったのだ。
 まだ真っ暗の深夜の中、オレはまず飼い犬のチワワを無理矢理叩き起こして近所を意味もなく散歩し、家に戻ってくると台所に食べ終わった食器類が山積みになっていたので、それらをすべてキレイに洗った。続いて、洗濯カゴに入っていた汚れた家族の衣類などを、これまたすべて洗濯機で洗い、ソレが作動している間に今度は息子用の朝食の仕込みをし、洗濯機が止まった次の瞬間には中から衣服を出してカゴに入れ、まだ真っ暗の庭に出て、ソレらを干し始めたのである。
 その後、部屋にあった漫画を読むも落ち着かなくて5分と読んでいられず、DVDを観ようにも同じく落ち着かずに10分も観れず、息子の部屋のドアをソーっと開けて奴の寝顔を見ようとしたが真っ暗で何も見えず、仕方がないので車に乗って3キロほど離れた吉野家に行って牛丼の特盛りを食べ、その駐車場でウチのガキが合格した際にオレはソレをどうやって奴に伝えるかのシュミレーションパターンを何種類も頭に思い浮かべた。そして家に帰ってきて部屋の時計を見るも、まだ時刻は6時10分。
 仕方がないので、スグにツイッターにその日の朝の体重と体脂肪率を打ち込んだ後、何人かのフォロワーと挨拶などを交わし、風呂を沸かすスイッチを入れ、紅茶パンをトーストして2度目の朝食を取り、再び漫画を読もうとするもやっぱし5分と読めず、そうこうしてるうちに風呂が沸いたので湯船の中にゆっくりと浸かった。
 結局、そのまま20分ぐらいボーーっとしていたのだろうか。気がつくとオレは半分のぼせ上がっており、湯舟から出るとシャワーを出し、松田優作のジーパン刑事の真似をして「何じゃ、こりゃああああ~~~~~っ!?」と腹部を打たれた仕種をした後、そのまま仰向けに倒れながらシャワーからのお湯を顔に浴び続けて死体を演じ、10分ぐらいそのまま寝っ転がってから、ようやく風呂から出た。
(おっ、ようやく9時半。あと30分で発表だ!!)

 部屋の時計を見てそう思った次の瞬間、現在は名古屋で働いてる弟のセージが「兄ちゃん。今日は息子の合格発表日だろっ? どこで発表されるのっ!?」と言いながら部屋に入ってきたので、驚きつつも「あと30分でインターネット上で発表されるんだよ!」と言うと、セージの嫁が「じゃあ、私達もココで発表を待ってていいですか?」と言ってきたのでウンと肯いた。
 ちなみに、オレは今さっきセージがオレの部屋に入ってきた瞬間、ウチの息子が第一志望の高校に合格したことを確信した。いや、これはまた別の機会にでも書くが、ウチのセージはオレがポイントの場面を迎える時になると必ずオレの前に飛び出てくるのである。そう、今回も普段なら当たり前に名古屋のマンションに嫁のミカと一緒にいるはずなのに、なぜかココにいるのだ。そして、必ず願いが叶うようにサポートしてくれる、オレにとっては手柄のサポーターのような存在なのだ。

 午前10時ジャスト。オレの机の上にあるパソコン画面に映し出されてる、ウチの息子の第一志望校のホームページに『2016年度、第二次募集合格者発表』というバナーが現れた!! オレは指先を微かに震わせながらも、そのバナーをクリック! ……すると、その高校の秋のイベントを紹介するコーナーが出現。
(何やってんだよっ、違うだろうがあああっ!!)
 オレはイライラしながらも再び、その高校のホームページのトップに戻り、もう1回合格発表のバナーをクリックし直したが、やっぱり秋のイベントコーナーに飛んでしまう画面。うおおおおお~~~~~っ!!
 そんな時だった。
「何やってんだよ?」
 振り返るとウチの嫁が、まだ起きてから3分と経っていないような顔で立っていた。
「いや、ウチのガキの合格発表を見ようとしてんだけどっ、何度クリックしても画面が秋のイベントコーナーに飛んじまうんだよっ!!」
「馬鹿じゃねえの」
「なっ……何がバカなんだよっ!! ちゃんと指示通りに操作してんのにっ……」
 オレが喋ってる途中で、さっさと部屋から出て行ってしまうウチの嫁。そして、3分間後……。
「やった、やったあああ~~~~~っ!! ウチの息子が合格したあああ~~~~~っ!!」
 そんな声がウチの嫁の部屋から聞こえ、「えっ、ホントおおおっ!?」と叫びながら嫁の部屋に走っていくセージたち。そして、それから1分もしないうちに、叩き起こされたウチのガキの喜んでる声までが聞こえてきたのである。そう、今朝の3時から起きていた男が、たった3分前に起きたクソ嫁にまたしても手柄を泥棒された瞬間だった……。


オレ、今だったら大嫌いなドジョウ鍋とかも食えるよ。脳天が痺れてて、何食ってるかも全然分からないから。……とにかく返してくれ、手柄を。


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