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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

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ゲッツ板谷プロフィールphoto

板谷宏一

1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

Vol.86 不利だよなぁ~、雄の親子関係って


 2014年9月4日、親父のケンちゃんが他界した。脳梗塞を何度か繰り返し、徐々に弱まって死んでしまった。
 オレは2012年の年末ぐらいからは、ケンちゃんを家族以外の人間には会わせなかった。体力自慢の体もすっかり衰え、脳梗塞で右半身が麻痺してしまったために1人では歩けなくなり、唇も半分しか動かなかったので、何を喋っているのかもサッパリわからなかった。オレはそんなケンちゃんを家族以外には見せたくなかったし、ケンちゃん本人もまた他人には見られたくないと思ったのだ。

 が、ただ1人、その時期にケンちゃんに会わせた友達がいる。それが香川県に住む、元々はオレの本の読者だった合田くんだった。合田くんとは、2012年の正月にオレが1人で香川県に行った時に、町内のうどん屋で彼がオレを待ち伏せしていて、それがキッカケで友達になった。もっとも統合失調症という重い精神病を患っている合田くんとの付き合いは、初めのうちは戸惑ってばかりいたが、それでもオレたちは会う度に仲良くなっていった。
 そのうち合田くんの家にもお邪魔するようになり、彼の御両親にも会った。2人は病院に度々入院していた合田くんのために生活費の殆どを使い、生活は決して楽そうではなかったが、それでも明るいところに好感が持てた。そして、香川に行く度に何度も会っているうちに、さらに合田くんの家族の特徴がわかってきた。

 合田くんはお母さんとはウマが合う。が、お父さんとはウマが合わなかった。ただ、同じ部屋で話しているだけなのに、何かというと合田くんはお父さんに文句を言い、お父さんの方もお前みたいな奴にそんなことを言われる筋合いはないとスグに言い返していた。でも、何年にも渡って合田くんの家にお邪魔していたオレにはわかっていたのだ。合田くんがお母さんが好きなのは、オレと同じでマザコンだからだ。が、合田くんは実はお父さんのことも大切に思っているのだ。
 なんでソレがわかったのかと言うと、オレは合田くんの家に何度も行くようになって、お父さんに日本酒を毎回お土産として持っていくようになった。合田くんの家で唯一お酒を飲むお父さんは、普段は安い焼酎とか発泡酒を飲んでいるので、オレがソコソコ入手困難な日本酒を持っていくと、一晩で一升瓶を空にしてしまうのだ。で、オレはお父さんには毎回2本ずつ持っていったが、そのうち合田くんのお母さんが飲み過ぎだと嘆き始めたので、再び合田くんの家に向かう1日前に電話で「今回の日本酒の土産は1本だけにした方がいいと思ってるんだけど、合田くんはどう思う?」と訊くと、彼は「いや、でも、ウチの親父はゲッツさんが持ってきてくれる日本酒をホントに楽しみにしてるので、1本だけだとガッカリすると思いますよ」という答えが返ってきたのだ。そう、合田くんがお父さんのことをどうでもいいと思っていたら「ええ、1本で充分ですよ」といった答えが返ってくると思うのだ。つまり、「1本だとガッカリすると思いますよ」という言葉は、まさに合田くんのお父さんに対する思いを凝縮したものだったのだ。

 また、オレは1度だけ合田くんがお父さんに対して、すまないと思っているみたいなことを話されたことがある。
「ウチの親父なんか給料も安くて、何の特技もないし、遊びだって全然してないのに、俺が頭がオカしくなって病院に入れられる度にハンパない金額を払い続けて、まともな貯金だって0ですよ。逆に俺が親で、俺みたいな息子が生まれたら殺してますよ」
 それでも合田くんと彼の父さんが同じ部屋にいると、しょっちゅう口ゲンカ。……まぁ、オレだってケンちゃんのことは嫌いじゃなかったけど、やっぱり家族とかで飯とか食べてるとケンちゃんに対してムカつくことが必ず出てきて、でもケンちゃんだって息子のオレには絶対に言い負かされたくないから、結局は毎回結論が出ないケンカばかりしてたんだよなぁ……。で、今、オレにも20才近くなった1人息子がいるんだけど、奴と言い争っていると、ふと、オレと言い争っていたケンちゃんの気持ちがようやくわかるような気がしてきたんだよね。

 で、2014年の8月。オレが書いた小説が再び東映で映画化されることになり、その撮影期間中にオレは香川から合田くんを東京に呼んだ。そしてその現場に何回か合田くんを連れて見学に行った後、自分の家に泊まっていた合田くんをケンちゃんが入院している病院に連れて行くことにした。
 合田くんはオレの本に出ている、昔から興味があったケンちゃんに急遽会うことになったということで急に緊張した感じになっていた。しかし、個室のベッドに寝ていたケンちゃんは、もう殆ど意識もなく、ただ何本もの管に繋がれた、まさに植物状態に近い感じだった。そう、写真で見ていたよりも小さく、体もシワシワで、ただ喉から空気を入れられ寝続けている小さな老人、合田くんはいきなり自分に飛んできたそのビーンボールにただただ面食らっていた。
「合田くん……。オレも親父とは昔からマトモに仲良く喋ったことなんて殆どなくて、顔さえ合えばいつもケンカばっかりしてたんだよ。でも………でもさ、こういう状態になっちゃうと、そのケンカも出来なくて、ただこうして病院に来て、その寝顔を見ることだけしか出来ないんだよ……。だから合田くんはまだ親父さんとはもちろんケンカも出来るけど、たまには昔のバカなことを笑い合いながら話し合ったり、ちょっとした小さな旅行だって出来るんだから……ホント、今のうちだよ。……こうなっちゃたら、もう遅いんだからさ」
「………は、はい」
 それから1カ月後、ケンちゃんは死んだ。
 で、その後もオレは合田くんのうちには何度かお邪魔してるのだが、相変わらず合田くんはお父さんに憎まれ口ばかり叩いている。が、それでもいいと思った。アレ一発で男の親子関係がわかったら、どんなにこの世が良くなることか。オレだって今、父親の立場になったら、自分は息子よりは世間をわかってるとは思いつつも、奴からの口撃でタジタジなんだから。



 あ~あ、今、息子がオレの話を真面目に5分だけ聞く薬があったなら、20万円ぐらいでもソレを買うんだけどなぁ………。







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